後編:アルコール依存かも?症状や治療について。具体例を挙げて。

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アルコール依存について

はじめに

前編では、アルコール依存についての原因や診断について50代の男性の具体例を挙げて、記事を書きました。

 

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この男性はその後どうなったのでしょうか?

 

本日はアルコール依存の症状や治療に触れながら、男性のその後について書きたいと思います。

 

アルコール依存の症状

渇望と飲酒行動

本来、飲んではいけないような状態でも強く酒を求めてしまうように感じることを飲酒渇望と言います。

 

アルコール依存の方は、この強い渇望でさいなやまされます。

 

飲酒行動はコントロール障害と表現されます。

飲み始めの時よりも長く飲んでしまったり、量も多く飲んでしまう、自身をコントロールできなくなってしまうことを指します。

 

連続飲酒がコントロール障害の典型ですね。

 

また大切なことは、長期で断酒できていても再飲酒を行うとコントロールを再度失ってしまうということです。

これは依存症の重要な特徴の一つです。

 

具体例の男性も、コントロールを失い連続飲酒を行い、短期間断酒ができていましたが、再度飲酒を行いコントロールを失っていました。

 

アルコール依存の離脱症状

離脱症状は、禁断症状とも言われ中枢神経がアルコールに依存している証拠とされています。

 

離脱症状には、自律神経症状や精神症状が出ます。

 

自律神経症状:手のふるえ、発汗(とくに寝汗)、心悸亢進、高血圧、嘔気、嘔吐、下痢、体温上昇、さむけ

 

精神症状:睡眠障害(入眠障害、中途覚醒、悪夢)、不安感、うつ状態、イライラ感、落ち着かない

 

アルコールの血中濃度が0になる前から起こると言われ、上記のような症状が出てきます。

 

この男性も、酒をやめようとすると手が震え、イライラや落ち着かなさといった症状が出ていました。

 

また、重症となるとアルコール離脱性のけいれんや、せん妄(意識が定まらなくなり幻覚を伴ったりする)を起こしたりすることもあります。

 

アルコール依存の心理特性

アルコール依存の方に特徴的な心理的な特徴があります。それは否認と自己中心性です。

 

もともとそういった性格傾向の方もいるかもしれませんが、飲酒を続けていくために後から作られた特性であることが大半です。

 

否認とは、本人が問題を全く認めなかったり、過小評価していることです。

 

自己中心性とは、物事を自分の都合のいいように解釈し他の人に配慮しないことです。

 

この男性も、社会生活に支障が出ていたにも関わらず、「酒なんていつでも辞められる」と独自の解釈で飲酒を続けて、家族から指摘される飲酒の問題を決して認めませんでした

 

アルコール依存の精神症状、行動障害

アルコールを長期で飲んでいると、認知症になっていきます。ただ、実際に受診に繋がるのは、本人の暴言・暴力、徘徊・行方不明、妄想といった問題から繋がる場合が多いです。

 

この男性も家族への暴力も出てきていたため、同伴で受診されました。

 

また、不眠症やうつ病などの精神障害を合併することが多いです。

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アルコール依存の身体症状

長期の飲酒によって、認知症、肝臓の障害、高血圧、糖尿病、高脂血症、癌などの身体症状を合併する可能性が上がります。

 

長期飲酒を放置していたら、命の危険に関わる体の病気になっていたということも少なくありません。

 

また、肝臓や血圧といった問題で一般内科を受診して、検査の数値が改善したら終了ということが非常に多いですね。

 

体や精神症状の治療をすることはもちろんですが、アルコールに対する依存についての治療を行い、再飲酒を防ぐということが最も大切なことです。

 

アルコール依存による社会的な問題

この男性は家庭内での暴力が問題となっていました。

 

また、人によっては飲酒した状態で車を運転し事故を起こしてしまって他人に被害を及ぼす人もいます。

 

家族以外の物や人に対し危害を与え、警察の世話になったり個人の問題だけでなく社会問題になって事が大きくなってしまうこともあります。

 

もしかしたらこの男性も飲酒を続けていたら、大きな社会問題になっていた可能性もあったかと考えるとアルコール依存は恐ろしいですね。

 

アルコール依存の治療

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外来での治療を行い、本人に断酒の意思がある場合には入院治療を行います。

基本的には本人に治療する気がないと依存の治療は難しいですが、例外もあります。

 

治療意思について詳しくはこちら

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アルコール依存の入院治療を行う場合には、解毒治療、リハビリ治療、退院後のアフターケアといった三段階になります。

 

この三段階が揃っている医療機関は多くありません。

 

アルコール治療を専門に扱う精神科病院を強くお勧めします。

 

精神科のクリニック、総合病院、大学病院、精神科病院でもアルコール依存の治療はできますが、リハビリやアフターケアまで整っていない施設が多いからです。

 

アルコールの専門医療機関はそれらが全て揃っています。

 

解毒治療

入院した患者さんに対して、まず精神・身体合併症と離脱症状の治療を行います。

精神・身体合併症については対症的に治療します。

 

離脱症状治療の原則は、まず交差耐性のあるベンゾジアゼピン系薬物でアルコールの肩代わりをさせ、漸減することです。

 

この処置を行わずに、点滴などでアルコールの排泄を促進すると、離脱症状を悪化させることがあります。 解毒治療は通常2~4週間行われます。

 

リハビリ治療

精神・身体症状が回復してきたら、断酒に向けての本格的な治療を行います。

a)患者さんに飲酒問題の現実を直面化し、
b)断酒を決意させ、
c)断酒継続のための治療を行います。

まず教育により、患者さんに正しい知識を提供するのと同時に、個人カウンセリングや集団精神療法などで否認の処理と断酒導入を行います。

 

退院後の断酒継続をみすえ、断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)といった自助グループへの導入を図るとともに、家族や職場との調整を行います。

 

自助グループとは、アルコール依存の患者さんの市民団体です。AAや断酒会というものがあります。

 

AAはアメリカで生まれ、日本でも広がっており、断酒会はAAをモデルにして日本で作られたものです。

 

両者ともアルコール依存経験者が自分の体験を語るといったことが基本になっており、断酒継続のモチベーションに非常に大切です。

 

またこの時期から、患者さんによく説明したうえで抗酒薬の投与を始めます。この治療は2ヶ月ほどかけてしっかりと行います。

 

抗酒薬には、ジスルフィラムとシアナミド、アカンプロサートという3種類の薬物があります。

 

ジスルフィラムとシアナミドはアセドアルデヒドを分解する酵素の邪魔をして、飲酒下で飲むと激しい二日酔い状態を起こします。

 

不快状態になるため、抗酒薬を飲んでいる状態での断酒継続のモチベーションになります。

 

また、アカンプロサートは飲酒欲求そのものを下げる薬です。

ただ、飲んだからといって飲みたくなくなるわけではなく、あくまで本人の断酒に対する意識の手助けといった認識がいいのではと思います。

 

また、最近セリンクロという飲酒量を減らす薬剤も出ましたが、あくまでアルコール依存の治療の原則は断酒であるため、この記事では触れないこととします。

 

おわりに

さて具体例の男性はどうなったのでしょう。

 

最初の外来から、本人は断酒をすると私や家族にも誓い外来で治療することとなりました。

 

翌週来院した時に、本人は照れたような表情で「飲んでしまった」と告白し、家族は呆れ返っています。

 

断酒の必要性を何度も説明し、離脱予防や不眠についての薬剤を処方しますが、短期間の断酒はできても、再度飲んでしまいます。

 

入院を勧めるも、本人は「入院しなくても酒はやめられる」と言い、否認が強くなかなか前にすすみませんでした。

 

3ヶ月ほど同様のことを繰り返していると、経済的にも困窮し始め、家族友人にも説得され、本人もようやく観念したのか、強い決心を持った印象で外来にいらっしゃいました。

 

「入院したい」とのことでした。

 

すぐにアルコールの専門機関に紹介状を書いて、入院してもらうこととなりました。

 

3ヶ月ほどの入院を経て、現在も通院、自助会に通いながら断酒できていると聞いています。

 

入院したから治療が終了するわけではなく、通院、自助会、抗酒薬の使用などを続けながら断酒を継続していくのが今後も大切ですね。

 

 

参考文献:

アルコール依存症|疾患の詳細|専門的な情報|メンタルヘルス|厚生労働省